ロレックスの2020年新作「エクスプローラー」はケース縮小で神機復活!!

『クロノス日本版』で取り上げることは少ないが、クロノス編集部は基本的にロレックスが大好きだ。頑強で高精度、視認性にも優れる上、外装の仕上げも際立っているのに、価格も控えめ。好きなモデルは多いが、中でも個人的な推しを上げるならば、「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」と通称「エクスプローラーI」こと「オイスター パーペチュアル エクスプローラー」だろうか。いずれも、ロレックスの美点はそのままに、なにしろ腕馴染みが良いのである。とりわけ、名機31系を載せたエクスプローラー(114270)はベストと思ってきた。そんな114270を思わせるのが、2021年に発表された新しい「エクスプローラー」(124270)だ。無難すぎて面白くないと評した人もいるが、直径36mmに回帰することで、好ましいパッケージングを取り戻したのは痛快だ。

オイスター パーペチュアル エクスプローラー

直径36mmとなった新しいエクスプローラー。ムーブメントは最新の3200系に置き換えられた。自動巻き(Cal.3230)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径36mm)。100m防水。広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2021年4月22日掲載記事

3000系に始まった、近代ロレックスの歴史

 個人的な意見を言うと、近代的なロレックス 偽物の始まりは、3000系(3035や3000など)がリリースされた1970年代後半だろう。このムーブメントは、先の1500系(1570)から転用した頑強で高効率な自動巻き機構に加えて、センターセコンド化のために、出車ではなく、4番車をセンターに置いた初のロレックスムーブメントだった。また、3000系は、ベースムーブメントの上に自動巻きモジュールを重ねるのではなく、自動巻きとベースムーブメントを一体化させた「近代的」な構造を持っていた。加えて振動数が1万9800振動/時から2万8800振動/時に向上し、携帯精度も大きく改善されたのである。

 このキャリバー3000を搭載したのが、エクスプローラー(14270)である。コストを抑えるためか、ヒゲゼンマイは巻き上げではなく平ヒゲ。しかし「エアキング」との差別化のため、クロノメーター検定を受けたムーブメントが搭載されていた。

 このムーブメントの、主にカレンダー周りに手を入れたのが3100系だった。発表は1988年頃。合わせてケースの素材が、ロレックスのいうオイスタースチール、つまり904Lに変わり、時計としての完成度をいっそう高めた。このムーブメントを載せたのが、2001年に発表されたエクスプローラー(114270)である。見た目は14270にほぼ同じだが、ブレスレットが重くなってヘッドとのバランスが取れたほか、ヒゲゼンマイを巻き上げヒゲに改めることで、際だった携帯精度を持っていた。新しい124270が出るまで、筆者にとってのベストロレックスは本作だった。

エクスプローラー,文字盤

エクスプローラーならではの文字盤。文字盤は従来に同じくラッカー仕上げ。またマイナーチェンジ後の214270に同じく、3・6・9のインデックスには夜光塗料のクロマライト ルミネッセンスが充填される。2008年に採用されたこの夜光塗料は、現在ほとんどのロレックスに採用されている。なお、2021年のエクスプローラーが採用したクロマライトは、残光時間が改良されている。

ヘッドが重くなり、ブレスレットも重くなった

 ケースとブレスレットに関していうと、ロレックスはこの40年間にわたって「イタチごっこ」を続けてきた。当初の3000系搭載機は、1500系搭載機に同じ、軽快な着け心地に特徴があった。一因は、軽いプラスティック製の風防である。しかし、後に重いサファイアクリスタル風防に変更することで、プロフェッショナルモデルのヘッドは重くなってしまった。重い「頭」とバランスを取るには、頑強なブレスレットやフラッシュフィットを合わせなければならない。

 それを可能にしたのが、2000年以降にロレックスが推し進めた外装のマニュファクチュール化だった。とりわけブレスレットの内製化により、ロレックスの各モデルは、ようやくヘッドとテールの重量バランスを回復したのである。また内製化は外装の質感を大きく改善したが、結果として、時計が重くなったことは否めない。

重さの増加を招いた、一体型のケース構造

 ユニークなケース構造も、ヘッドが重くなる一因だった。普通の時計は、ケースに内蔵した中枠(ムーブメントホルダー)にムーブメントを固定する。対して1500系以降のロレックスは、ケースとスペーサーを一体化させ、そこにムーブメントを据え付けるようになった。これがロレックスの言う「モノブロックミドルケース」である。スペーサーを省いた理由は、おそらくケースを頑強にするため。ショックは直接ムーブメントに伝わってしまうが、1500系以降に採用されたフリースプラングテンプであれば、精度への悪影響を抑えられる。

 これは極めて理にかなった構造だったが、構造上ヘッドは重くなりがちだ。かつては問題にもならなかったが、ロレックスがケースサイズを拡大するようになった2000年代以降、ヘッドの重さは目立つようになった。しかし、ブレスレットを重くすることで、ロレックスは時計のバランスを維持し続けたのである。さじ加減の上手さは、さすがロレックスというほかない。

 余談をもう少し続けたい。時計全体が重くなると、ブレスレットをゆるく巻くのが難しくなる。結果として、一部のオイスターパーペチュアルは、バックルにエクステンション機能を内蔵するようになった。あくまで私見だが、時計が軽ければ、エクステンション機能はさほど必要ではない。

新しいエクスプローラーは、ケースサイズ36mm!

 2010年に発表されたエクスプローラー(214270)は、重さと頑強さ、質感と装着感のギリギリを攻めた時計だった。114270の軽快な装着感は失われたが、プロフェッショナルモデルに相応しい頑強さを歓迎した人は少なくなかった。また、前作よりも重くなったブレスレットは、結果として、ヘッドとの良好なバランスを保つことになった。仮に、これ以上時計が大きかったならば、時計としてのバランスは崩れただろう。

ロレゾール,ロレックス

新しいエクスプローラーには、なんとロレゾールことコンビモデルもある。SS、ロレゾール問わず注目すべきは、フラッシュフィットとケースの極めて狭いクリアランス。現在さまざまなメーカーが間隔を詰めようとしているが、今なおロレックスに及ぶメーカーはない。

 加えて2006年頃のマイナーチェンジにより、214270は魅力を増した。長針が長くなり、アラビックインデックスにも夜光塗料のクロマライトを施すことで、より実用時計らしくなったのである。筆者の知る限り、すべてのインデックスが光るエクスプローラーは、1016以降初ではないか。

 214270の良さを受け継ぎつつも、ケースを36mmに縮小したのが、2021年の124270である。そのたたずまいは、ミニ214270というよりも、114270の進化版と呼んだ方がよさそうだ。変更点は以下の通り。

・ケースサイズが36mmに縮小
・ムーブメントが3130から3230に進化
・クロマライトが改良

 冒頭から述べてきたとおり、最大の変化はケースサイズだ。2000年以降、ケースを拡大することにより、ロレックスは頑強さと視認性を高めてきた。しかし、重くなりがちなケース構造を考えると、サイズの拡大には自ずと限界がある。対して124270は、あえてケースを縮小することで、相対的に軽い着け心地を取り戻したのである。14270や114270のような「ヒラヒラ感」には乏しいものの、高級時計らしい重厚さと軽快な装着感の両立は、今のロレックスにしかなしえないものだろう。

ロレックス,バックル

極めて重厚なブレスレットとバックル。ロレックスがいう「セーフティキャッチ付オイスターロック クラスプ」である。前作同様、イージーリンク(エクステンションリンク)により、ブレスレットの長さを約5mm延長できる。興味深いのは、バックルを支えるボール。最近各社はセラミックス製のボールを採用するが、本作はあえてのスティールである。

時針・秒針の長さもちょうど良い

 個人的に歓迎したいのは、時針と秒針の改良である。発表当初の214270は秒針こそインデックスに届いていたが、時針は明らかに寸足らずだった。マイナーチェンジで時針と秒針は伸ばされたものの、結果として、長くなり過ぎた。これだけ長い針をきちんと動かす3100系というムーブメントには感心させられたが、インデックスから飛び出るほど針が長いと、ツールウォッチ感がなくなってしまう。

 見た限りでいうと、214270の時針と秒針は、インデックスを超えない長さに揃えられた。このバランスは114270にまったく同じ。針にうるさい時計好きも、本作の針は許容するのではないか。また、「EXPLORER」のロゴも、114270同様、6時位置から12時位置に戻された。

パワーリザーブの延びたCal.3230

 キャリバー3230の搭載により、性能も向上した。最も分かりやすい違いはパワーリザーブ。3100系の約48時間に対して、3200系は約70時間に延びた。香箱を薄くして長い主ゼンマイを詰めるという手法は、他社にも見られるもの。加えて巻き上げ効率の改善を図ったのは、いかにもロレックスだ。ローターは抵抗の少ないボールベアリング保持となり(ようやくの改良だ)、自動巻き機構に使われるリバーサーも、慣性を下げるためか大胆に肉抜きされた。

 リバーサーは軽くするほど効率が上がる反面、摩耗しやすいといわれている。リバーサーで経験を積んだロレックスは、いよいよ高い耐久性と低い慣性の両立に成功したようだ。実際にテストした訳ではないが、3100系同様、巻き上げ効率は優れているに違いない。

 知られざる改良点が、夜光塗料のクロマライト ルミネッセンスである。ロレックスの説明によると、新しいエクスプローラーとエクスプローラー IIには、さらに改良されたクロマライトを採用したとのこと。詳細なスペックは不明だが、以前に比べて残光時間が長くなっているようだ。また、針やインデックスの「縁」を絞ることで、針やインデックスに充填されるクロマライトの体積は明らかに増えた。

Cal.3230

新しいエンジンとなるのが、Cal.3230。長いパワーリザーブと、高い耐衝撃性と耐磁性能を誇る、第一級のムーブメントである。常磁性のブルー パラクロム・ヘアスプリングや高効率のクロナジー・エスケープメントなどを備える。自動巻き。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ケーシング後の日差-2~+2秒。

 外装もわずかに変更された。新しいロレックスの常で、前作の214270は張り出した太いラグを持っていた。対して124270のラグは、114270ほどではないが、側面が絞られた。こういったモディファイは、2020年に発表された「サブマリーナー」に同じ。2000年以降ケースを太らせてきたロレックスは、スリムさを考えるようになった、と言えそうだ。

文句なしに優れた時計だが……

 さて結論である。114270に熱狂してきた筆者にとって、124270は「神機」になり得る存在だ。堅牢でコンパクトなケースに加えて、高精度なムーブメントと際だった視認性。加えて、価格も3万円も安いのである。じゃあめでたしめでたしとならないのが、ロレックスの困った点だ。優れた時計なのは間違いないが、手に入れるのは極めて難しいだろう。どうせ買えないからいいんだけどさぁ。。。